先端機能素子開発部 内田 勝、 梁瀬 智

 当センターでは、機能性光学デバイスとして液晶を使った光デバイスを開発しています。このデバイスには高抵抗膜技術などのユニークな要素技術が含まれていますが、これら多くの周辺関連技術で県内の企業に貢献していきます。

高抵抗膜技術

 我々が扱っている「高抵抗膜技術」とは、高い電気抵抗値と、高い透明性を兼ね備えた薄膜材料を作製する技術です。
 図1のように電気材料は抵抗値の大きさにより、絶縁体、半導体、導電体と区別されます。ガラスなど透明な材料の多くは絶縁体です。一方、酸化インジウムスズなどは透明でありながら比較的高い導電性をもつので、ディスプレイ上の配線にも使われています。ある程度電気を通す材料は帯電防止用途などに使われています。我々が開発した高抵抗膜は、これと同程度に高い電気抵抗をもちながら、耐熱性があり、経時変化も小さいことから、種々の電子デバイスに利用することができる材料です。
 応用例の一つを紹介します。液晶を使った光デバイスでは、液晶に加わる電界分布が最適になる様に制御する必要があります。高抵抗膜がない構造では、最適な電界分布を形成するためには厚い絶縁層が必要となることから駆動電圧は100Vにもなってしまいます。一方、高抵抗膜を下部電極近くに配置することで(図2)、薄い絶縁層でも適切な電界分布が得られるようになり、数ボルトで液晶レンズを駆動することが可能となりました。
 このように高抵抗膜は電極の形状、構造、配置などに自由度を与え、また電界分布を制御する方法です。透明な材料である特長を活かして、新たな電気光学デバイス等に広く利用できる技術であると期待しています。

図1 表面抵抗値と各種透明材料

図2 液晶光デバイスの構造例(液晶レンズ)

 

 

 

 

 

 


液晶光デバイスへの応用例

 図3は、レンズとして動作する「液晶レンズ」です。加える電圧を変えることで、カメラで撮影した画像の焦点を手前から奥、奥から手前へと連続的に変えることができます。液晶レンズには機械的に動く部分がないために無音・無発塵そして軽薄短小という特長があります。
 図4は、照明光の広がりが変化するように作製した「液晶配光デバイス」です。LED照明から出た光は、デバイスがOFFのときにはそのまま通過して1点を照らしてます。ONにすることでデバイスが作用して通過した光を大きく広げることができます。

図3 液晶レンズ(レンズ径3mm)の動作例
(V1、V2の電圧を変えることで焦点位置が変化)

図4 液晶配光デバイスの動作例(LED照明の先端にデバイスを装着)

 

 

 

 

 

 


高抵抗膜の開発状況

図5 当センターの真空成膜装置。高抵抗膜など薄膜材料の開発に利用

 透明な導電体である酸化亜鉛を出発材料とし、これに酸化銅を添加するなど種々の検討を行うことで、透明性を維持しながら抵抗値の増加を試みました(図5)。その結果、表面抵抗 107から1012Ω/□の範囲を1桁刻みでコントロールすることができました。デバイス作製工程(熱処理)や長期安定性も確認できていることから、電気光学デバイスの設計に応じた最適な膜を提供できます。一方で、透過率は90%程度なので、さらに向上させることが必要です。また、量産化のための技術を開発、確立することが次の課題となってます。

企業支援
 
 高抵抗膜の今後の課題に対しては、光学機器メーカーである株式会社目白ゲノッセン秋田工場と協働で取り組んでます。今年度の公益財団法人本荘由利産学振興財団ものづくり助成事業に「液晶レンズ向け透明高抵抗膜の開発」が採択されました。こうした企業の強みをさらに伸ばすよう当センターのもつ周辺関連技術で支援していきます。