流体解析技術による製品開発支援について

素形材開発部 井上 真  

 高山 健太郎

伊勢 和幸 

 

コンピュータを用いた流体解析技術について

 製品の設計・開発や性能改良を行う上で、試行錯誤を繰り返しながら試作を行うことがあります。しかしながらその試作には、相応のコストや日数がかかるなどの様々な問題があります。最近では3Dプリンターの普及などにより、部品や金型などの比較的小型の試作はかなり手軽になってきました。加えて、製品そのものだけでなく製造工程をも含む「モノづくり」全般における試行錯誤の回数を減らす上では、コンピュータによる解析技術を活用することが、今日では非常に有効な手段となっています。このような製品開発の初期段階から、コンピュータを用いて仮想的な試作や試験を十分に行い、できるだけ少ない試作回数で、高品質な製品開発を行うためにコンピュータを活用した設計・解析技術は、CAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれており、当センターでも様々な分野で技術支援を行っています。

 このようなコンピュータを用いた解析技術の成果は、何も製品開発だけではなく、日々の日常生活でも目にする機会があります。その中でもここ最近、その成果の有用性を目にする機会が多くなった一つの例として、人がマスクをつけた際の飛沫の様子や室内の換気の様子など、「モノ」の動き・流れを解析する「流体解析」という解析技術があります。この流体解析技術は以前から、毎日の天気予報にも用いられており、私たちの暮らしに役立てられています。このように流体解析技術は、人の目には通常見えない「モノ」を、見えるようにすることで、これまでにない様々な情報を提供することを可能としています。

図 1 天井取り付け型エアコンの解析例

 その流体解析技術の一例として図1には、天井にエアコンを取付けられた広さ6畳程度の部屋における、エアコンからの空気の流れを計算した事例を示しています。4つある吹き出し口から下の方に流れ出た空気は、真下にあるテーブルなどに当たりながら、部屋の下の方でゆっくりとした流れになって留まっています。一方、天井付近では、吹き出し口から流れ出てはすぐに戻ってくる空気の流れが多いことがわかります。このようにコンピュータによる流体解析の結果から、私たちが直接見ることができない部屋の空気の流れを視覚的に把握することができます。そして、どのようにすれば効率的な換気が行えるかなどの対策を立てるのに役立てることができます。

 

熱解析技術について~熱伝導解析と熱流体解析~

 先の空気の流れのように、人の目で直接見ることができずに、コンピュータによる解析を活用している分野として他には、「熱」の流れがあります。私たちの社会活動の中で生み出されている熱の内、実にその3分の1は、未利用のまま自然界へと排出されています。もし、この未利用熱を有効活用できる技術開発が進めば、これからの社会活動で極めて重要視されている二酸化炭素の排出量の削減にも繋がる重要な技術にもなり得ます。そこで、「熱」に関する解析、即ち、「熱流体解析」や「熱伝導解析」などの「熱解析」にも取り組んでいます。

この熱流体が用いられている製品の一例として、「熱交換器」があります。熱交換器は、高温側から低温側への熱が伝わる性質を利用することで、効率良く熱を移動させる部品・製品であり、身近なところでは、エアコンや冷蔵庫、自動販売機などに用いられています。

 私たちは企業と共に開発を進めているこの熱交換器について、実物での評価実験とその熱解析の両面から、性能向上に関する検討を行っています。図2には、開発した標準的な円管状二重管式熱交換器の模式図を、図3には、その熱交換器において、高温側から低温側にどれだけの熱が移動したのかを測定実験及び熱伝導解析を行った結果を示しています。この円管状二重管式熱交換器は、2つの円管でできており、内側と外側で異なる温度の液体や気体の熱流体を、対向するように流すことで熱の交換を行っています。ここでは、外側の管の中には低温の水を、内側の管の中には高温の空気を流した際に、どれだけの熱エネルギーが、高温の空気から低温の水に移動したのかを測定しました。また実験と同じ条件で熱解析も行っていますが、手法を工夫することによって、熱流体間での熱の移動量の解析を、本来は動きを伴わない解析に用いる熱伝導解析によって求めました。図3に示すように、実験と解析でほぼ一致する結果が得られました。このように、円管状二重管式熱交換器の熱交換性能を熱解析できることで、実験では条件変更が容易ではない、例えば風量を変更した際の性能予測も、図3に示してあるように求めることができました。それ以外にも、形状や寸法、さらには材料物性を変えた解析も可能であり、解析技術をうまく活用することで、試作開発の軽減や高性能化の検討を効率的に行うことが可能になると考えます。

 

    

図 2 円筒状二重管式熱交換器

図 3 円筒状二重管式熱交換器の熱交換性能の冷却水量依存性

 また、熱流体解析の取組みの中でもここ最近特に力を入れているのは、雪を熱で溶かす、「融雪」に関することです。秋田県では以前から雪の問題はありましたが、特にここ最近の異常なまでの豪雪によって、家屋の倒壊や農作物への被害、そして、屋根の雪下ろしや除雪中における人的な被害が、極めて大きな社会問題となっています。このような被害を少しでもなくすための技術開発の一環として、屋根の融雪を行う技術の開発に取り組んでいます。図4には、屋根の上に取付けた屋根融雪システムの解析モデルの模式図を、図5には、その熱流体解析の一例を示しています。屋根融雪システムはおおよそ三角柱の空洞構造となっており、その中に温風を導入する円筒管を、三角形部分のおおよそ中心付近に設けています。円筒管の側面には、複数の穴が設けています。その複数の穴と導入管の先端から出る温風が、融雪システム内で複雑に対流しながら雪と接する面を暖め、更には、融雪システムと屋根の隙間から出た温風が、屋根表面に流れ出ては屋根表面を暖めることで、屋根表面自体での融雪が可能になるものと考えています。

 

    

図 4 屋根融雪システムの解析モデル

図 5 図4のモデルでの熱流体解析例

 この屋根融雪システムは、県内企業と共に開発を進めており、実際の家屋に設置することで、屋根の雪下ろしを不要にしたり、回数の低減することに貢献できることを確認しています。今後、県内に広く普及させるためには、より効率的な運用が可能な構造などを検討する必要があり、現在も解析なども交えて改良を進めています。

 

 熱・流体解析技術の今後の活用について

 このように目には見えない「モノ」の動き・流れを解析する「熱・流体解析技術」などの解析技術は、「モノづくり」の試作段階における効率化だけでなく、量産段階における手戻りを少なくする上でも、重要な役割を担う強力なツールになっています。ここで紹介している「熱・流体解析」技術も、最近のコンピュータの性能向上に伴って、その技術向上も顕著であり、解析技術導入に対するハードルも以前よりは低くなってきております。

 私どもでは、皆様のご要望について十分な打合せを積み重ねた上で、正確で有用な解析結果を提供できるよう努めていますので、まずは、お気軽にご相談ください。