機能性光デバイスの応用例と開発・技術支援について

先端機能素子開発部 梁瀬 智

内田 勝

 

小さな液晶レンズが並んだ液晶マイクロレンズアレイ

図1 φ150μmの液晶レンズを多数配列したLC-MALの動作状態(干渉縞パターンと、複眼結像)

 Web成果報告会「機能性光学デバイスのための高抵抗膜技術の開発支援」に掲載した液晶レンズの応用例と、その作製・評価に係る装置や技術についてご紹介します。液晶が持つ電気的、光学的異方性を利用して、電気的に液晶分子の並びでレンズ効果を発生させるデバイス「液晶レンズ」が作製できます。液晶レンズでは透明電極(例えばITO)に円形パターンを形成しますが、このパターン形状や大きさや数などを変えることで様々な光学効果が生み出せます。図1はITO電極に150ミクロンの円形パターンを並べて形成・作製した液晶マイクロレンズアレイ(LC-MLA)の動作例です。左側の同心円上の模様の干渉縞はレンズ状態であることを示します。また右側はテストチャートを観察した像で、昆虫の眼の様に同じ像が並んでいることがわかります。このレンズは印加電圧で素通しとレンズの切り替えができます。

図2 LC-MLAによる光散乱効果:3cmのスポットを10倍に拡大した例

 次に、LC-MLA光の拡散効果を説明します。図2では30ミクロンの円形パターンを並べた電極で作ったLC-MLAを使っています。約3cm径に絞ったLEDの光がLC-MLAを通すと約10倍の大きさに広がり、電圧で切り替えができることが判ります。このようなレンズの効果の切替が電圧で制御可能です。図3はLC-MLAを通して画像を観察した様子です。電圧なし(OFF)では素通しの「AIT」の文字が、電圧印加(ON)でぼやけて見えています。ご紹介した小さなサイズのレンズ効果を持つLC-MLAは、照明光の制御やスマートウインドなど、撮影用のレンズ以外の分野での応用が期待されています。また「機能性光学デバイスのための高抵抗膜技術の開発支援」でも紹介があった、くし歯状の電極を使ったデバイスも開発されています。液晶光学デバイスは、小型軽量、無音で機械動作がなく、電気的に光の制御が可能なデバイスです。これらの特長を生かし、今の時代に求められる技術や応用を考えて開発を進めています。

図3 LC-MLAで素通しガラスと曇りガラスを切替える例

 

電極パターンの形成技術について

図4 クリーンルーム内での製膜装置とフォトリソグラフ作業の様子

 これらの光デバイスに用いられる電極のサイズは1 mm以下の微細で精密なパターンです。当センターではフォトリソグラフィ技術(写真食刻法:精密な日光写真の様なもの)を使って電極パターンを形成しています。パターンを形成したい金属膜やITOなど電極膜が付いたガラス基板にフォトレジスト(印画紙に相当)を塗り、精密に設計・作製されたフォトマスク(ネガフィルム相当)を重ねて、専用の装置で紫外線を照射します。レジストを現像するとパターンが写ります。更に電極膜だけを溶かす薬品に漬けることでフォトマスクのパターンが電極膜まで転写されます。当センターでは図4の様にクリーンルーム内の清浄な環境の中に紫外線が入らない黄色に見える部屋の中でこれらの作業を行うことが出来ます。電極膜だけでなく様々な薄膜上への微細加工に応用が可能であり、当センターはこれまでも様々なニーズへのご相談に対応しております。

光学的な評価技術について

図5 光スぺクトラムアナライザによるギャップ測定の例

 液晶デバイスを初めとする機能性光デバイスの作製や性能評価において活用される装置をご紹介します。液晶デバイスの基本構造は2枚のガラス基板を貼り合わせた極僅かな隙間に液晶材料を閉じ込めています。図5上の様に、数ミクロンから数十ミクロンの空気の隙間による光の干渉が起きるので透過した光の強度が波長によって異なります。この様子を図5下の様に光スペクトラムアナライザを使った計測値からギャップを算出できます。本装置はUV-Aから光通信帯までをカバーする広い波長範囲(350~1750 nm)での評価が可能で、これまでにも光源の分光特性、フィルタの分光透過特性など、多様な分野でご利用いただいています。

 

光学技術、関連機器・装置の活用

 当センターでは、ここでご紹介した機能性光デバイスに限らず、薄膜製膜や評価および微細加工、光学的な位相差計測や分光特性評価、照明装置・器具の評価など、様々なニーズに対するご要望・ご相談に対応しております。ご活用をお待ちしております。