IoT技術の開発と活用について

電子光応用開発部 丹 健二  
佐々木 信也
佐々木 大三
伊藤 亮  
千葉 さおり
先進プロセス開発部 大竹 匡  

IoTとは

図1 スマートスピーカー

 外出先からスマートフォンで操作が可能な「スマート家電」や、人の音声に反応し、様々な要求に応えてくれる「スマートスピーカー(図1)」など、便利な製品が身近なものとなりました。これらの機能は、IoT(Internet of Things)という仕組みにより実現されています。IoTは、「モノのインターネット」と訳され、情報通信機器だけでなく、様々なモノがインターネットにつながり、相互に情報交換する仕組みを指します。IoTを用いることで、遠隔での情報収集、操作による利便性の向上だけでなく、これまで得られなかった多くの種類の情報を大量に収集することが可能となります。このようにして得られたビッグデータは、それ自体に高い価値があるだけでなく、人工知能(AI)等を用いて処理することで、これまでに無かった新しい価値を生み出すことができます。

 

これまでの取り組み

 当センターではこれまでに、モノからデータを収集するためのセンシング、データをやり取りする通信、データの蓄積・処理・加工などのIoTを実施するために必要な主要項目における技術を蓄積するとともに、安全にIoTを実現するためのセキュリティ技術に関する検討を行ってきました。また、当センター研究員が講師となり、各種研修会等を通じて、これらの要素技術を県内企業に技術移転してきました。更に、共同研究という形でも県内企業に対するIoT技術の普及に取り組んできました。

 

共同研究による技術支援

 当センターでは、様々な共同研究の中で、IoT研究で培った技術を応用し、多くの課題を解決してきました。一例として、平成30年度から実施している「日本酒の発酵管理」をテーマとした秋田酒類製造株式会社(清酒 高清水 醸造元)との共同研究について紹介します。日本酒作りは、酵母などの微生物による発酵を利用するため、多くの要因が影響し合い、状況は時々刻々複雑に変化します。そのため、発酵過程の適切な制御には、経験を有する酒造工の長時間に及ぶ作業を必要とする等の課題があります。また、酒造工の高齢化、担い手不足の問題にも直面しています。これらのことから、日本酒製造においては、製造工程の効率化と製造技術の継承が喫緊の課題と言えます。本共同研究は、管理項目の連続監視と、異常発酵等のトラブルの早期発見が可能なシステムを構築し、日本酒もろみ発酵工程の合理化と、経験と勘による製造からの脱却を目的とし、これまで人間により定期的に行っていた計測に対し、上記技術を適用することで、人手を介さず、多くの測定箇所のデータを細かい時間間隔で得ることができるようになりました。

 令和元年度まで工場内は、ネットワーク環境が構築されていなかったため、通信にはsakura.io モジュール(LTE)SCM-LTE-01による3G回線と、データ送信先として当センター内のサーバーを用いて発酵タンク内のリアルタイム監視とデータ蓄積・分析を行っていました。令和2年度からは、これまでの実証結果などを踏まえWi-Fi環境を構築し、各センサをESP32-DevKitCに取り付け計測するとともに、MQTT(MQ Telemetry Transport)により、ローカルエリアネットワーク内のNAS(ネットワークHDD)に送信、データベースに各センサ値を格納する構成としました。またNASからMQTTにより外部の仮想サーバーに接続し、各センサの現在値やアルコール分推算値を社外からスマートフォンなどで確認可能なシステムを構築しました(図2、図3)。なお、クラウドにはデータベースを設けず、現在値確認のみを目的とした運用とすることで安全性も確保しました(図4)。

図2 システム構成図

 

    

図3 コントロールパネル

図4 クラウド上での見える化

 当センターのIoTの取り組みは、テレビや新聞などにより報道されたこともあり、県内企業のみならず県外からも問い合わせなどをいただいております。今後も、これまで以上の効率化、コストダウンによる競争力強化のための支援が必要と考えています。また、製品開発などの上流から工場等での見える化などの下流まで幅広く、シンプルかつ簡便な方法でこれらが導入できる環境の構築を進めてまいります。