次世代型多機能セラミックスの開発

先端機能素子開発部 関根 崇 

菅原 靖 

企画事業部 杉山 重彰

 

セラミックス開発に向けて

 セラミックスは、無機物に熱を加えて焼き固める「焼結」によって得られる材料で、電子部品や医療機器、触媒、構造用の耐摩耗部品や耐熱部品、調理器具等、様々な分野で利用されています。特徴としては、硬い、摩耗に強い、熱や腐食に強い、絶縁性といった性質があります。その反面、もろい、加工が難しい等の欠点があります。私達は、セラミックスの従来の欠点を改善し、優れた利点を一層伸ばして、切削工具や構造部材等、工業用途で高い特性を発揮する新たな複合セラミックスの開発に取り組んでおります。

工業用セラミックスへの期待

図1 通電加圧焼結装置による焼結実験

 近年、自動車や宇宙航空機等の輸送機器を構成する部品に用いられている材料には、優れた機械的性質、耐熱性、高温強度、耐食性、軽量等の性質が求められます。これらを満たす材料として、耐熱合金と呼ばれる材料が注目されています。耐熱合金は優れた特性を持つ反面、切削加工が非常に難しい材料です。耐熱合金の加工用工具に用いられる材料として、硬さや高温強度、耐熱性に優れたAlNやSi3N4等の窒化物をベースとしたセラミックスが注目されています。

 窒化物系セラミックスは高い熱伝導率や耐熱性を持ち、切削工具だけではなく、高温構造材としての応用も期待できます。しかしながら、これらの窒化物は難焼結材料と呼ばれ、単体での緻密な焼結が難しいという問題があります。緻密な焼結ができないと、セラミックス内部に空隙等の欠陥が生じて機械的性質や熱伝導率の低下につながります。従来は酸化物を添加して緻密に焼結されてきましたが、酸化物が悪影響を及ぼし窒化物が本来持つ優れた特性が低下してしまいました。また、窒化物系セラミックス自体は加工性が悪く、さらには絶縁性のために放電加工ができない等の問題があります。これらの課題を解決することで、工業用途で付加価値の高い新たなセラミックスを創出することができます。

新たな窒化物系複合セラミックスの開発

図2 AlNセラミックスのビッカース硬さ

 当研究グループでは、特性の低下を招く酸化物を用いずにAlNベースの焼結体を作製し、優れた機械的性質、高い熱伝導率、さらには導電性が付与されることで放電加工が可能な複合セラミックスの開発に取り組んでおります。これまでに、高い熱伝導率を持つAlNにWCを添加したAlN-WCセラミックスを開発してきました。試料作製方法としては、原料を直接加熱し短時間で緻密に焼結することが可能な、通電加圧焼結技術用いて作製しました。AlNにWCを添加して焼結することで、緻密なAlN-WC複合セラミックスを得ることができました。AlN-WCの機械的性質を調べた結果は、AlNの焼結で一般的に添加されるY2O3添加の試料に比べてヤング率、ビッカース硬さ、破壊靭性値が改善しました。特に、硬さは同一添加量にも関わらず、WC添加で1.5倍増加しました。電子顕微鏡にて焼結体の複合組織を観察した結果、Y2O3添加とWC添加で組織が異なることが確認され、この組織形成の違いが機械的性質の向上に寄与していると確認することができました。今後は、複合化による微細組織制御で特性のさらなる向上に向けた研究を進めていきます。

図3  AlN複合セラミックスの微細組織

評価・分析技術

図4 機械的性質の評価

 当センターでは様々な材料の評価・分析技術を保有しており、この技術を活用してセラミックスの材料開発に取り組んでおります。

 作製した材料の構成相を調べるためにXRDによる分析や、EPMAによる分析・観察、FE-SEMによる微細組織の観察等を行っております。また、機械的性質の評価には、ビッカース硬さ試験、摩耗試験等を用い、他にも熱伝導率の測定や熱分析で熱的特性を評価しております。これらの評価技術は、セラミックスのみならず、金属等の他の材料の評価にも応用することができ、企業支援にも活用しておりますので、これらの材料評価にお困りの際はお気軽にご相談ください。