素形材開発部 荒川 亮  共同研究推進部 森 英季

超音波霧化とは何?
 超音波は人間の耳には聞こえない高い周波数の弾性振動波のことです。超音波は私たちの生活において身近な存在で、エコー検査や超音波洗浄機や溶着機、非破壊検査のほか、超音波式の加湿器などでも用いられています。
 当センターでは、圧電素子を用いた超音波振動による霧化技術について研究開発を行っています。超音波霧化技術は、液剤の入った容器の底面に取り付けた振動子から超音波を照射しキャビテーションを発生させる霧化手法と、振動子により発生する縦振動をホーンで増幅することで先端部の液面に発生する表面波(キャピラリ波)を用いる手法の二つに大別されます。このうち、当センターでは発生した液粒の指向性に優れる後者の手法について検討を進めています。

次世代の塗布・成膜技術としての超音波霧化
 ウエアラブルデバイスやフレキシブルデバイスでは、半導体を用いた新たな機能や付加価値の高い製品の開発が広く行われており、塗布・成膜プロセスが重要な作製工程となっています。近年では、従来のようなシリコンやガラスエポキシなどの硬い平面基板に対してスパッタや蒸着で膜付けしエッチング加工するのではなく、印刷技術の応用や薄膜技術の適用が想定されており、将来的には曲面に対する有機薄膜の作製や種々の樹脂材料に対する薄膜作製のための手法が求められています。また、有機半導体作製の分野においては、大気中での成膜としてインクジェットによるパターン形成や超音波、静電力によるスプレーコートも行われており、それぞれの特性に応じた使い方が求められています。溶媒として有機溶剤を用い、かつ高価な液剤を用いることが多いため塗布成膜においては省液性も求められています。
 この点において超音波霧化技術を用いた成膜では液剤の誘電率に依らず、立体物に対する塗布も可能であることから、次世代の塗布・成膜技術として考えられています。

開発した超音波霧化装置

 開発した超音波霧化装置を用いて液剤霧化を行っている様子が図2です。霧化面から発生した液粒が重力方向に一様に落射していることが確認できます。
 図3は霧化面における液粒発生の過程をハイスピードマイクロスコープで撮影した画像です。超音波振動によるキャピラリ波により液剤の表面にさざ波が発生します。このさざ波が大きく振動することで頂点(波頭)から液剤が粒状に飛翔し、これが連続的に発生することで超音波霧化となります。
 霧化液粒の粒径は、さざ波の大きさによって定まり、すなわち超音波振動の共振周波数によって決まります。一例として、共振周波数が40 [kHz] の超音波霧化を行った際の粒度分布を図4に示します。ここで用いた液剤は純水で、供給速度を0.1 [ml / min]、霧化面から18 [mm] 離れた位置で測定しています。このときの液滴のザウター平均(体表面平均)径は38.26 [mm]で正規分布状になっていることが確認できます。
 液剤物性に依る蒸発や液粒同士の凝集について考慮する必要はありますが、これまでの研究で共振周波数を高めることで粒径は小さくなる傾向が確認されています。
 ここでご紹介した超音波霧化技術は、冒頭で触れた有機系液剤の塗布・成膜ツールとしての利用のほか、従来の塗装技術からの置き換えや液剤微粒化による検査技術への応用も期待されます。様々なニーズに対するご要望にお応えしますので、お気軽にご相談ください。