共同研究推進部 千葉 隆
素形材開発部 経徳敏明
電子光応用開発部 近藤祐治
産業労働部地域産業振興課 田口 香

レーザー用光学製品

図1.レーザーショー

 レーザーはレーザー溶接や加工等の工業用途、レーザーメスやレーザー治療などの医療用途のほか、レーザーショー(図1)やレーザーディスプレイ、CD/DVDの書き込み・読み取りなど、身近なところで幅広く使われています。このレーザー光の増幅や光路を形成するのに、レーザーミラーやレンズ、プリズム、波長フィルターなどが使われます。秋田県湯沢市にあるエドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社では、カメラや顕微鏡関連製品のほか、このようなレーザー用光学部品などの精密光学製品の開発を行っています。

レーザー用光学部品に求められる特性

図2.表面粗さが光の反射に及ぼす影響

 レーザー用光学部品の一つであるレーザーミラーは、ガラス基板とその上に形成される積層薄膜で構成されています。薄膜の材料は、ハフニウム化合物や酸化ケイ素など用途によって様々な組成があります。これらの薄膜が何層にも積み重ねられた構造ですが、ミラーはレーザーを減衰させずに効率よく、且つ正確に反射させることが求められます。そのため、薄膜表面の平坦性や平滑性、均一性が大変重要(図2)であり、欠陥のない薄膜を形成するコーティング技術が要求されます。また、ガラス基板は表面研磨したものが用いられますが、その上に形成される薄膜表面は基板表面の凹凸が反映されることから、基板表面を平滑にする研磨技術も極めて重要となります。表面粗さの指標であるRaとしては、原子レベルの値が求められます。   このほかにもミラーに求められる特性としては屈折率や透過率、耐レーザー損傷性などがあり、使用するレーザーの波長に応じた光学特性にする必要があります。そのためには、積層する薄膜をそれぞれ設計通りの組成や膜厚、積層周期で形成しなければなりません。

共同研究による技術支援

 秋田県産業技術センターではエドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社との共同研究により、センターの様々な装置を用いて評価を行い、レーザーミラーの製品開発、実用化に向けた技術支援を行ってまいりました。図3は、元素分析機能付きの電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)を用いて、薄膜の形状や組成を調べている様子です。

図4.ESCA分析の様子

図3.SEM観察の様子

 

 

 

 
 
 

 

図5.AFM観察の様子

  また、図4の光電子分光装置(ESCA;Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)では、元素の化学状態や薄膜の深さ方向について分析をすることが可能です。図5は、原子間力顕微鏡(AFM;Atomic Force Microscope)を用いて研磨後のガラス基板や、薄膜の表面性を評価している様子です。一例として、AFMによる表面性評価の結果を図6に示します。ある工程の改善前(左側)の凹凸に比べて、改善後(右側)の凹凸が小さいことが分かります。表面粗さの指標Raで比較すると、工程改善により表面性は一桁以上向上し、原子直径程度のおよそ0.15nmであるとの結果を得ました。このほか様々な検討をもとに、エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社によりレーザーミラーが開発、製品化されました(図7)。

図6.AFM像:(左)工程改善前、(右)工程改善後

図7.開発されたレーザーミラー

 

 

 

 

 

 

 

 

 このように、様々な評価結果を加工条件や設計等にフィードバックしてもらうことで、加工プロセス技術の確立、ノウハウの蓄積、さらには性能のより良い製品の開発、実用化のための技術支援を行っております。