先端機能素子開発部 菅原 靖、関根 崇

塩水噴霧による腐食促進試験

 腐食試験には、塩水を使用する方法と腐食性ガス(硫化水素、二酸化硫黄、二酸化窒素、塩素等)を使用する方法等がありますが、安全性や操作性から塩水を用いる方法が多く用いられています。塩水を用いる方法には、中性塩水噴霧試験と複合サイクル腐食試験があります。中性塩水噴霧試験は、各種試料(電子部品、自動車部品、金属材料、めっき皮膜、塗装膜等)の耐食性を評価する腐食促進試験で、槽内に設置した試料に、槽内温度35℃、濃度5%、pH7の中性塩水溶液を連続噴霧し、腐食の発生状況から耐食性を評価します。また、複合サイクル腐食試験は、塩水噴霧試験に乾燥、湿潤、外気導入等の工程を任意に組み合わせた試験で、塩水噴霧試験よりも使用環境に近い条件での試験が可能であることを特徴としております。
 当センターでは、複合サイクル腐食試験機(スガ試験機(株)、CYP-90)(図1、2、3)を所有しており、日本産業規格(JIS)に定められております「JIS Z 2371 塩水噴霧試験方法」や「JIS H 8502 めっきの耐食性試験方法(中性塩水噴霧サイクル試験)」、また日本自動車技術会規格(JASO)に定められております「JASO M609 自動車用材料腐食試験方法」や「JASO M610 自動車部品外観腐食試験方法」等をはじめとする各種試験が可能です。本装置を用いて、県内外の企業様の製品開発、既存製品の品質向上、品質管理等を支援しております。

試験項目と設定条件

 複合サイクル腐食試験機で実施可能な試験項目と設定条件は、次のとおりです。

図1 複合サイクル腐食試験機

1.中性塩水噴霧試験  
   温度:35±1℃
   試験液:中性5%塩水
   塩水噴霧量:1.5±0.5 ml / 80cm2 / h(35℃)
2.乾燥       
   温度:(室温+10℃)~70±1℃
   湿度:25±5%rh(60℃)
3.湿潤(湿度可変)  
   温度:(室温+10℃)~50±1℃
   湿度:60~95±5%rh(50℃)
4.湿潤(高湿):温度50℃において湿度95%rh以上(JASOサイクル試験時)
5.外気導入:外気とほぼ等しい温度

図2 試験槽内の様子

図3 中性塩水噴霧試験の様子

 

 

 

 

 

 

 

支援の事例

 複合サイクル腐食試験機を用いて、県内外の企業様の製品開発、既存製品の品質向上、品質管理等を支援した事例について紹介いたします。
1.耐食性に優れた塗装膜の開発(A社)
 金属製品の長寿命化を図るため、耐食性に優れた塗装膜の開発を行っています。金属板と塗装膜の間に設置する中間層の成分等について検討していますが、中間層の異なる塗装試料(図4)を試作し、複合サイクル腐食試験(塩水噴霧2hr、乾燥4hr、湿潤2hr)を100サイクル行い、耐食性を評価しました。その結果、中間層の無い塗装試料(図5、中間層無)では赤錆の発生や塗装の剥がれが起こり、中間層に亜鉛等を用いた塗装試料(図6、中間層Zn等)では試料の外周付近に白錆が発生しましたが、中間層にニッケル等を用いた塗装試料(図7、中間層Ni等)では錆の発生は認められませんでした。塗装膜の最適な作製条件が明らかになり、金属製品に採用されることになりました。

図4 試験前   図5 試験後

図6 試験後    図7 試験後

 

 

 

 

 

 

 

2.自動車用ポンプ製品の耐食性評価(B社)
 自動車用ポンプ製品の耐食性を評価するため、複合サイクル腐食試験(塩水噴霧2hr、乾燥4hr、湿潤2hr)を100サイクル行いました。試験後のポンプ製品に大きなダメージは認められず、また正常な稼働が可能であったことから、ポンプ製品は高い耐食性を有することが明らかになりました。
3.高耐食性金属板の開発(C社)
 腐食の発生しにくい金属板の開発を行っています。試作金属板の耐食性評価として、中性塩水噴霧試験(塩水24hr連続噴霧)を行いました。大部分の試作金属板で腐食は起こりませんでしたが、金属の成分によっては錆の発生する板もありましたので、試作、評価を継続しています(図8、9)。

図9 試験後

図8 試験前

 

 

 

 

 

 

4.屋外用照明器具の耐食性評価(D社)
 屋外用照明器具の耐食性を評価するため、中性塩水噴霧試験(塩水168hr連続噴霧)を行いました。金属製スタンド等に腐食は見られませんでしたが、部品固定用のネジに赤錆が発生しましたので、ネジの材質を変更することにしました。
5.光学レンズ試作品の環境耐久性評価(E社)
 光学レンズ試作品の環境耐久性評価の一環として、中性塩水噴霧試験(塩水24hr連続噴霧)を行いました。試験の結果、光学レンズ試作品に腐食や変色は見られず、高い環境耐久性を有することが確認されました。今後、製品への展開を図ることになりました。
 複合サイクル腐食試験機は、エレクトロニクス産業、自動車産業をはじめとする様々な分野でご利用頂ける装置です。使用のご希望がございましたら、お気軽にご連絡下さいますようお願いいたします。