先端機能素子開発部 黒澤 孝裕、木谷 貴則

EMCとは
 
ラジオに雑音が入る、無線ヘッドホンの音が途切れ途切れになる、など、電子機器に外部から他の電子機器から発生した予期しない電磁エネルギーが入ることによって問題が生じるときがあります。機器外から入る電磁エネルギーは放送や携帯電話などの無線通信に妨害を与えるだけでなく、自動制御システムなどにも妨害を与えることもあり、場合によっては大事故を引き起こす要因にもなります。こういった、複数の電子機器が存在するときに、それらが互いに電磁的な影響による問題を起こすことがなく正常に動作するための性能をEMC (Electro Magnetic Compatibility、電磁環境両立性) 性能と呼びます。これは、機器から発生する電磁エネルギーをあるレベルより低くするためのエミッション(EMI)性能と、外部から電磁エネルギーを受けても正常に動作するためのイミュニティ(EMS)性能、双方が必要になります。安全のためそれぞれに規制が設けられ、試験法や許容値が定められています。

電波暗室の運用
 このEMC試験を行う設備として、当センターは電波暗室を核としたEMC計測設備を整備しています。この設備を利用し、電子機器の製品開発時に必要となるEMC計測技法を指導するとともに、EMC対策技術を向上させ、製品開発の効率化やEMC品質の向上を図ってきました。令和元年度は13社から50件以上の利用がありました。
 また、こういったEMC測定において規制合否を判断する際には、他機関での測定値との違いに注意し、相互運用性の向上を図る必要があります。このため、全国の公設試35機関と連携し、“同一発振器の持ち回り測定”活動に参加しました。その結果、他の試験場と同等の測定結果が得られ、異なる試験機関を跨いで評価を行っても問題がないことを確認しています。

電磁場センシング技術の開発
 さて、EMC試験で不合格となった場合に対策が必要となりますが、この対策の際に、機器のどこから電磁波が出ているのか、あるいは、外からの電磁波がどこに集中しているか、を観測できれば、対策がしやすくなります。こういった電磁波の分布を見るため、当センター独自の計測センサーを開発し、システム化しました。このシステムはセンサー部分を完全に非金属化しており、センサー自体による電磁波の乱れを非常に小さくしています。
 令和元年度はこのシステムの測定時間の高速化を実現するため、測定用レーザーのビームスキャンによって分布を測定できるシステムを開発しました。このシステムによって、測定面の下に設置したサンプルを動かさずとも電磁波分布を測定できるようになりました。また、信号処理系の改良により高周波特性を改善し、1 GHz~20 GHzまでの高周波分布を測定できます。今後は、測定システムの定量性を向上させて再現性の良い分布測定を実現するとともに、さらに高周波の測定を目指し、第5世代移動体通信(5G NR)の全周波数への対応も視野に入れたいと考えています。