先進プロセス開発部 久住孝幸

川下企業との商談で市場ニーズを確信
 仙北市角館町にあるインスペック株式会社は、フレキシブル基板やパッケージ基板に描画された配線パターンの外観検査を検査する装置を製造販売する会社です。同社は、取引先との商談を通じて、フレキシブル基板をロールから取り出し、配線パターンを描画し、そのままロールに戻すことができる描画装置に市場ニーズがあることを確信していました。
 現在の自動車は、急速な電子化によって図1に示すように、ワイヤーハーネスという電線の束が神経や血管の様に張り巡らされており、その重量増と組立作業の煩雑さを解決するために図2に示すようなフレキシブル基板(FPC)への置き換え検討が進められています。しかしながら、既存のFPCパターン描画装置はエレクトロニクス製品向けに開発されているため、最大描画サイズが600mmまでで、自動車産業で必要とされる6000mm超級FPC向けの対応製品は存在しませんでした。そこで、インスペック社はロールtoロール型の直接露光装置の開発へと一歩踏み出すことにしました。

図2 上:ワイヤーハーネス 下:FPC

図1 迷路状のワイヤーハーネス

サポイン事業への挑戦に向けた全面支援
 秋田県産業技術センターは、インスペック社からの相談を受け、目指す高度な技術と確かな市場性を有望案件と判断しサポイン事業へ共同で挑戦することを決めました。サポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)とは、日本経済を牽引する大企業のものづくりを支えている金型、鍛造、鋳造、めっき等の基盤技術を有する「ものづくり中小企業」群(サポーティングインダストリ)を、経済産業省が強力に支援する補助事業です。応募にあたっては、管理法人をはじめとした研究推進委員会の構成検討から、研究開発項目の整理、年度ごとの研究計画策定にあたっての助言を行い、また、研究項目ごとに支援対応する当センター研究員を選定・参画させ、応募書類の作成の全面支援を実施しました。

想定外の課題にぶつかった研究開発
 競争率2.7倍の中で採択された本事業の開発期間は2年間で、初年度に原理確認装置を開発・製作、レーザーでパターンを描画するという原理を確認し、2年目に実際の製品版に近い試作モデルを製作して、市販化検討を実施するという計画でした。
 初年度において、原理実験装置を製作して原理を確認したところ、描画用レーザーの描画性能が想定よりも低く、十分な描画性能が 得られていない問題が発生しました。
 そこで、当センターの表面性状評価装置(ZYGO社製NewView6300)を用いてFPC基板の描画品位を確認したところ、図3に示すようにレーザー光の焦点ずれが発生している可能性があることがわかりました。2年目の製品版に近い試作モデルでは、あらかじめ焦点位置を計測・調整した後に装置内に組み込むことによってこの問題を解決しました。また、振動解析を伊藤亮研究員が実施し製品版の耐振動性も明らかにしました。

図4 製品版装置の振動解析

図3 テストパターンの描画品位・焦点ずれ

製品説明会直後からの大反響
 2年間の開発期間を経て、インスペック社は、自動車向け仕様について製品化の目処がたったことから製品説明会を令和元年12月3日、東京証券取引所兜クラブにて公式に発表を行いました。その直後から大反響となり、株価が連日値幅制限の上限となるストップ高を示し続けるなど、市場からの期待感の高さに驚くばかりでした。
 実際の製品出荷の際には更なるデータの蓄積並びに調整の必要性が有りますが、引き続き支援を実施してまいります。
 このように、秋田県産業技術センターでは、県内企業の独自技術・独自商品開発に向け、多彩な技術支援を実施しています。