企画事業部  熊谷 健

印刷プロセスで作った電子回路

 モノから情報を得るためには、⼈間の代わりに対象物の状態を検知するセンサが使われますが、IoTではセンサの数も膨⼤になります。そのため、⼤量のセンサを製造するための⾰新的な⼿法の⼀つとして印刷プロセスに着目し、主にディスペンシング技術による電⼦回路印刷に取り組んでいます。ディスペンシングとは液体を精度良く定量供給する技術のことで、通常はシリンジに⼊った液体をノズルから吐出させます。ディスペンシングによる電⼦回路印刷ではロボットと組み合わせ、導電性接着剤を吐出させながら回路を形成していきます。導電性接着剤には⾦属粒⼦が含まれており、塗布後に⾏う熱硬化⼯程により、接着剤成分が収縮することで⾦属粒⼦同⼠が接触して導電性が⽣じ、回路やセンサとして動作するようになります。

製造プロセス

製造プロセス

曲面へ貼り付けたセンサ

曲面へ貼り付けたセンサ

紙やプラスチックへの回路形成が可能

 印刷プロセスを使うと、⼀般的な基板の製造⼯程ではできなかった紙やプラスチックへの回路形成が可能となり、製造⼯程の簡素化や有害物質の低減を実現できる可能性も秘めています。現在は温度センサの開発を⾏っていますが、IoTにおける温度センサのニーズは⾼く、⼤量に必要となるケースも多いため、⻑寿命、⾼精度などセンサ⾃体の⾼性能化とともに、安価であることも求められています。

今回製作した温度センサ

薄型温度センサ

薄型温度センサ

 測温抵抗体(RTD)と呼ばれるタイプで、電気抵抗と温度の相関をとることにより温度を測定します。導電性接着剤とロボットをディスペンサー使⽤し、ポリイミドフィルム上にセンサのパターンを形成しており、製造コストが安いだけでなく、薄く柔軟であるためどこにでも簡単に貼り付けることができ、使⽤範囲の広がりを期待できます。

開発のポイントと今後の計画

 抵抗値計測⽅法については安価であることが望ましく、そのためIoT分野で活⽤され安価である⼩型シングルボードコンピュータRaspberry Piを使ったシステムを構築しました。今回製作した薄型温度センサは低抵抗であるため、⾼精度な抵抗値測定が難しいのですが、構築したシステムではデジタルマルチメータとほぼ同じ値を安定して取得していました。

装置の前で作業する著者

装置の前で作業する著者

 薄型温度センサと熱電対を⾼温チャンバー内に設置し、構築したシステムで抵抗値と温度の相関を求めました。測定結果から温度と抵抗値は⽐例関係となり、抵抗値から温度を求めるための式が導出されました。この式を使うことにより温度センサとして機能することになりましたが、今後は⻑期間を経ての耐久性や安定性を検証していくとともに、⾼温(100℃以上)への対応も検討していく予定です。